2012年 09月 07日
Mats Eilertsen "SkyDive" 公演初日感想 |
昨夜、新宿 Pit Inn にてMats Eilertsen の "SkyDive" 公演が行われた。
オープニング・アクトは太田惠資(violin, voice)と今堀恒雄(guitar)の二人だ。緩やかな太田のリードで始まったインプロヴィゼーションは今堀の抑制の効いた効果的なバックを得て、すぐに不思議世界へと突入した。「不協」の「不」の字が意味を失うほど、「曲」の主題感はテンションを帯びているが、だからといってその「不」の連続が感情を逆なですることもない。不平衡の平衡とでも言えばいいのだろうか。音の構成はほとんど長調・短調の枠組みから離脱し、永遠の回遊の中にあるような気分にさせる。太田と今堀の暗黙の了解が、突然の音の変化を普通の流れの如く綴っていく。このあたりは太田のリーダー・バンド「「Yolcu-Yoldaş(ヨルジュ・ヨルダシュ)」での「旅仲間」意識のなせる業か。アコースティックとソリッド・ボディーの二台のヴァイオリンを使う太田は時折、中近東風ヴォイスなどを駆使して、不平衡を破るが、これがまたいたって秀逸だ。インプロによる連続するテンションの空隙を民族的親近性(でも異国情緒という非親近性が同居)で解消するという方向には大きく納得させられるものがある。
「一曲」30分に及ぶ太田・今堀世界を引き継いだのは、Mats Eilertsen と彼らとのインプロ・セッションだ。これには途中、サックスの Fredrik Lundin が飛び込むという面白い展開があり、大いに沸かせた。Matsのダブルベースは音が深い。いわゆる弦楽器の何とも言えない渋く、いい音色だ。よくジャズ・ベースで、アコースティック系のダブルベースを使用していても、エフェクトやプリアンプなどの使いかたにより、エレクトリック調に転化されるものが見られるが、Mats はあくまでアコースティックの音がする。太田・今堀との掛け合いは、思いもかけない展開が随所に見られ、かつユーモアにも富んだものとなった。特に、最後の部分で、Mats が何回も空を切るように(音を出さずに)強く振リ降ろす弓に呼応して太田が弓を降ろしはじめ、数回二人で降った後にインプロが終わったのは、これまで見た数々のインプロの中でも、記憶に残るものとなるだろう。何と言っても、「音を出さずに」クロージングしたところがよかった。
セッションが終わり、休憩のあと、いよいよMats たちの番となった。今回の来日公演初日、Mats の最新バンドがいかなるものか、多くのファンは期待を胸に待っていた。
このバンドの最大の強みはすばらしい作曲とそれを実現するアンサンブルにある。それがライヴを聴いた実感だ。それは別の言い方をすれば、基本の徹底だ。特に音量コントロールが並はずれている。これはプロ・ミュージシャンの「基本のキ」で、通常これをことさら取り上げることはあまりない。Mats の曲の「美」の源泉は、メンバー全員の非常に徹底した音の管理にある。その点、ギタリストの Thomas Dahl は高く評価されよう。普通、ギタリストはバンドの中で最も音量が大きく、その抑制が鍵となることが多いが、これに失敗しているバンドは星の数ほどある。Thomas は音色も繊細で、コードワークも丁寧、そして音量コントロールの巧みさは突出している。Mats のバンドのアンサンブルにとって Thomas はなくてはならない。
勿論、他のメンバーも負けてはいない。特筆すべきはドラムの Olavi Louhivuori だ。彼も音量コントロールに長けている。素手を使って撫でるようにドラムを擦ったり、軽く叩いたりする一方、これぞという時は、思い切りアンサンブルの上限ギリギリまで拡張できる。ドラムのリムや側板、それ以外あらゆるところを使って微細な音を生み出している。乾いた音で、軽めの響きだが、これがアンサンブルに加わるとバンドをグッと引き締める。彼のリーダーバンド Oddarrang (オッダラン)来日公演でも見せてくれたが、一曲の中での「盛り上げ」は彼の特技だ。
ピアノの Alexi Tuomarila はアタックが強い。一音一音がとてもはっきり響く。速弾きフレーズでもそれは変わらない。腕と指はもちろんのこと、身体全体の鍛え方が違うのだろう。すでに自身のリーダーバンドが名声を獲得しているのは、これまでの彼のキャリア(各種コンペ優勝歴)のせいだけではない。ライヴでの安定した音の鳴らし方で、それが見てとれる。Mats のバンドでのアンサンブルの重要性をよく理解し、ここでも適切な音量コントロールが徹底して行われている。
今回 Tore Brunborg に代わり参加した Fredrik Lundin はさすが ECM のアルバム参加歴があるだけあって、とても説得力のあるサックスを披露した。深みのある、「うまく枯れた」渋い音だ。タンギングもタイミングをわきまえ、これみよがしの派手さを排除して、アンサンブルに溶け込んでいる。今回のバンドの中では年齢が上ということもあり、バンドに確かな安定感を与えていたように思う。
たかがヴォリューム・コントロールと思うことなかれ。基本中の基本は、積み重ねた個人練習と多くのライヴ経験で少しづつ得られていく。「美」は一夜にしてならず。「美」の後ろにはそれを実現するためのたゆまぬ努力が必ず存在している。
オープニング・アクトは太田惠資(violin, voice)と今堀恒雄(guitar)の二人だ。緩やかな太田のリードで始まったインプロヴィゼーションは今堀の抑制の効いた効果的なバックを得て、すぐに不思議世界へと突入した。「不協」の「不」の字が意味を失うほど、「曲」の主題感はテンションを帯びているが、だからといってその「不」の連続が感情を逆なですることもない。不平衡の平衡とでも言えばいいのだろうか。音の構成はほとんど長調・短調の枠組みから離脱し、永遠の回遊の中にあるような気分にさせる。太田と今堀の暗黙の了解が、突然の音の変化を普通の流れの如く綴っていく。このあたりは太田のリーダー・バンド「「Yolcu-Yoldaş(ヨルジュ・ヨルダシュ)」での「旅仲間」意識のなせる業か。アコースティックとソリッド・ボディーの二台のヴァイオリンを使う太田は時折、中近東風ヴォイスなどを駆使して、不平衡を破るが、これがまたいたって秀逸だ。インプロによる連続するテンションの空隙を民族的親近性(でも異国情緒という非親近性が同居)で解消するという方向には大きく納得させられるものがある。
「一曲」30分に及ぶ太田・今堀世界を引き継いだのは、Mats Eilertsen と彼らとのインプロ・セッションだ。これには途中、サックスの Fredrik Lundin が飛び込むという面白い展開があり、大いに沸かせた。Matsのダブルベースは音が深い。いわゆる弦楽器の何とも言えない渋く、いい音色だ。よくジャズ・ベースで、アコースティック系のダブルベースを使用していても、エフェクトやプリアンプなどの使いかたにより、エレクトリック調に転化されるものが見られるが、Mats はあくまでアコースティックの音がする。太田・今堀との掛け合いは、思いもかけない展開が随所に見られ、かつユーモアにも富んだものとなった。特に、最後の部分で、Mats が何回も空を切るように(音を出さずに)強く振リ降ろす弓に呼応して太田が弓を降ろしはじめ、数回二人で降った後にインプロが終わったのは、これまで見た数々のインプロの中でも、記憶に残るものとなるだろう。何と言っても、「音を出さずに」クロージングしたところがよかった。
セッションが終わり、休憩のあと、いよいよMats たちの番となった。今回の来日公演初日、Mats の最新バンドがいかなるものか、多くのファンは期待を胸に待っていた。
このバンドの最大の強みはすばらしい作曲とそれを実現するアンサンブルにある。それがライヴを聴いた実感だ。それは別の言い方をすれば、基本の徹底だ。特に音量コントロールが並はずれている。これはプロ・ミュージシャンの「基本のキ」で、通常これをことさら取り上げることはあまりない。Mats の曲の「美」の源泉は、メンバー全員の非常に徹底した音の管理にある。その点、ギタリストの Thomas Dahl は高く評価されよう。普通、ギタリストはバンドの中で最も音量が大きく、その抑制が鍵となることが多いが、これに失敗しているバンドは星の数ほどある。Thomas は音色も繊細で、コードワークも丁寧、そして音量コントロールの巧みさは突出している。Mats のバンドのアンサンブルにとって Thomas はなくてはならない。
勿論、他のメンバーも負けてはいない。特筆すべきはドラムの Olavi Louhivuori だ。彼も音量コントロールに長けている。素手を使って撫でるようにドラムを擦ったり、軽く叩いたりする一方、これぞという時は、思い切りアンサンブルの上限ギリギリまで拡張できる。ドラムのリムや側板、それ以外あらゆるところを使って微細な音を生み出している。乾いた音で、軽めの響きだが、これがアンサンブルに加わるとバンドをグッと引き締める。彼のリーダーバンド Oddarrang (オッダラン)来日公演でも見せてくれたが、一曲の中での「盛り上げ」は彼の特技だ。
ピアノの Alexi Tuomarila はアタックが強い。一音一音がとてもはっきり響く。速弾きフレーズでもそれは変わらない。腕と指はもちろんのこと、身体全体の鍛え方が違うのだろう。すでに自身のリーダーバンドが名声を獲得しているのは、これまでの彼のキャリア(各種コンペ優勝歴)のせいだけではない。ライヴでの安定した音の鳴らし方で、それが見てとれる。Mats のバンドでのアンサンブルの重要性をよく理解し、ここでも適切な音量コントロールが徹底して行われている。
今回 Tore Brunborg に代わり参加した Fredrik Lundin はさすが ECM のアルバム参加歴があるだけあって、とても説得力のあるサックスを披露した。深みのある、「うまく枯れた」渋い音だ。タンギングもタイミングをわきまえ、これみよがしの派手さを排除して、アンサンブルに溶け込んでいる。今回のバンドの中では年齢が上ということもあり、バンドに確かな安定感を与えていたように思う。
たかがヴォリューム・コントロールと思うことなかれ。基本中の基本は、積み重ねた個人練習と多くのライヴ経験で少しづつ得られていく。「美」は一夜にしてならず。「美」の後ろにはそれを実現するためのたゆまぬ努力が必ず存在している。
by invs
| 2012-09-07 11:24
| Mats Eilertsen