2013年 06月 10日
Steinar Raknes ソロ公演 - 感想 |
5月に行われたSteinar Raknes ソロ公演について書いておく。
当初Skaidi(スカイディ)+Steinar Raknes(スタイナー・ラクネス)ソロ 、ジョイント公演として企画されたが、Skaidi のシンガー Inga Juuso が来日直前、急性肺炎となったため、急遽 Steinar Raknes のソロ公演として行われた。東京と上越の会場は予定どおりの場所で日程も変更はなかった。
ノルウェーのベーシストSteinar Raknesが正式に歌手としてデビューしたのはまだ数年前のことだ。もともととても腕の立つプレイヤーで、20代にUrban Connectionというトリオでジャズ・ミュージシャンとしてデビューしてすぐにノルウェーのアカデミー賞にあたる賞を受賞したり、デンマークの国際ジャズ・フェスティヴァルで若手プレイヤーのための賞を受賞していた。その後ハイヴォルテージでアグレッシブなグループ The Core のベースをやり、更には自分のバンド Steinar Raknes Quartet を立ち上げたり、北欧少数民族の歌手 Inga Juuso とSkaidi を始めたりと精力的に活躍している。全体としてとても音楽の幅が広いミュージシャンだ。
その彼がシンガーとしても(ダブルベースを弾きながら)うまくやっているというニュースが耳に入りだして注目していた。以前Skaidi として初来日した時に数曲ソロを歌った時は、その内容の濃さを実感したが、本国ノルウエーにおいてあそこまで評価が高まるとはその時は思わなかった。Steinar の歌の凄さを初めて感じたのは 数年前、Steinar Raknes Quartet 初来日時にソロ公演をかませた時だ。30分程度であったが、シンプルなダブルベースをバックに、カヴァー曲を無心に歌う彼の声は万人を納得させるだけの質量を備えていた。普通、カヴァー曲を歌うシンガーにはなかなか説得されないのだが、彼は Susanna に次いで二人目のそういう特殊なシンガーだった。
そういう経験があったため、今回はSteinar のソロ公演を「ジョイント」公演の一部としてSkaidi と同列に配していた。結局、Skaidi が登場しなかったため、Steinar の持ち時間は更に増えた。そして、その中で彼が見せた演奏には、ただならぬ気迫と質のいい音楽を追求してやまない真摯なミュージシャン精神が宿っていた。近年稀に見るシンガーだと思う。天は二物を与えずとは言うが、彼には二つ以上与えられている。
この評価が独善でないことは、ブロードキャスターとして長年DJ を行なうかたわら数多くの素晴らしい音楽を紹介し続けてきたPeter Barakan氏がとても高く評価されていることでもわかる。ごく最近、第50回ギャラクシー賞「DJパーソナリティ賞」を受賞したBarakan 氏がわざわざ会場となった新宿 Pit Inn に来場され、Steinar の演奏を大いに楽しんでおられた。その前後にはInter FM の番組 "Barakan Beat"で何回もSteinar の曲を紹介されていたことが強く印象に残っている。公演主催者側としては本当にありがたく心強く思った。
Steinar の声は男性によくある単なる深く低いヴォイスではない。芯がある。そして、多分ここが肝なのだと思うが、彼自身が弾くダブルベースのフレーズと巧みにうまくアレンジされている。同一人が演奏しているから当然なのだが、できるだけフリルを削り、最小限の音数で最大限の効果を狙っている。それも、いわゆる「音楽的に整理された」演奏というより、「直観をそのままヴォイスと運指に適応した」演奏だ。Steinar の子供の頃のヒーローはBob Dylan だったそうだ。当時の純粋な気持ちがそのまま演奏させている。そういう感じがした。
Steinar の使うダブルベースは 1780年イタリア製という。日本で言えば江戸時代、天明の大飢饉の頃だ。この古いベースを修理しながら世界中持ってまわる。飛行機に乗るとき荷物として預けるのがいつも怖いと言っていたが、このベースは本当にいい音がする。弦は羊の腸に銀を巻いたものだそうだ。これを背が高いSteinar が全身を使って弾く。
カヴァー曲とオリジナル両方あったが、どの曲も極めてシンプルながら、よくアレンジされている。カヴァー曲であっても原曲の癖を感じさせない。知っている曲だがフレッシュな感覚だ。オリジナルの方は今回の日本公演でプレミアがかなりあった。来日直前まで新曲を書いていたらしいが、ライヴで新曲を「鍛え上げる」過程も目撃した。ホテルの部屋、会場の楽屋裏など時間があれば練習していた。新曲の歌詞を i-pad に入れ込む作業なども夜中を通してやっていたりする。
普通にうまいのは当たり前。その上をどうやって実現するか。聴く者の時間感覚をなくさせ、別の次元へ連れて行く。そこまでやってプロだ。
Steinar はホンモノだ。
上越市 La Sone での公演 - photo: Cocola
当初Skaidi(スカイディ)+Steinar Raknes(スタイナー・ラクネス)ソロ 、ジョイント公演として企画されたが、Skaidi のシンガー Inga Juuso が来日直前、急性肺炎となったため、急遽 Steinar Raknes のソロ公演として行われた。東京と上越の会場は予定どおりの場所で日程も変更はなかった。
ノルウェーのベーシストSteinar Raknesが正式に歌手としてデビューしたのはまだ数年前のことだ。もともととても腕の立つプレイヤーで、20代にUrban Connectionというトリオでジャズ・ミュージシャンとしてデビューしてすぐにノルウェーのアカデミー賞にあたる賞を受賞したり、デンマークの国際ジャズ・フェスティヴァルで若手プレイヤーのための賞を受賞していた。その後ハイヴォルテージでアグレッシブなグループ The Core のベースをやり、更には自分のバンド Steinar Raknes Quartet を立ち上げたり、北欧少数民族の歌手 Inga Juuso とSkaidi を始めたりと精力的に活躍している。全体としてとても音楽の幅が広いミュージシャンだ。
その彼がシンガーとしても(ダブルベースを弾きながら)うまくやっているというニュースが耳に入りだして注目していた。以前Skaidi として初来日した時に数曲ソロを歌った時は、その内容の濃さを実感したが、本国ノルウエーにおいてあそこまで評価が高まるとはその時は思わなかった。Steinar の歌の凄さを初めて感じたのは 数年前、Steinar Raknes Quartet 初来日時にソロ公演をかませた時だ。30分程度であったが、シンプルなダブルベースをバックに、カヴァー曲を無心に歌う彼の声は万人を納得させるだけの質量を備えていた。普通、カヴァー曲を歌うシンガーにはなかなか説得されないのだが、彼は Susanna に次いで二人目のそういう特殊なシンガーだった。
そういう経験があったため、今回はSteinar のソロ公演を「ジョイント」公演の一部としてSkaidi と同列に配していた。結局、Skaidi が登場しなかったため、Steinar の持ち時間は更に増えた。そして、その中で彼が見せた演奏には、ただならぬ気迫と質のいい音楽を追求してやまない真摯なミュージシャン精神が宿っていた。近年稀に見るシンガーだと思う。天は二物を与えずとは言うが、彼には二つ以上与えられている。
この評価が独善でないことは、ブロードキャスターとして長年DJ を行なうかたわら数多くの素晴らしい音楽を紹介し続けてきたPeter Barakan氏がとても高く評価されていることでもわかる。ごく最近、第50回ギャラクシー賞「DJパーソナリティ賞」を受賞したBarakan 氏がわざわざ会場となった新宿 Pit Inn に来場され、Steinar の演奏を大いに楽しんでおられた。その前後にはInter FM の番組 "Barakan Beat"で何回もSteinar の曲を紹介されていたことが強く印象に残っている。公演主催者側としては本当にありがたく心強く思った。
Steinar の声は男性によくある単なる深く低いヴォイスではない。芯がある。そして、多分ここが肝なのだと思うが、彼自身が弾くダブルベースのフレーズと巧みにうまくアレンジされている。同一人が演奏しているから当然なのだが、できるだけフリルを削り、最小限の音数で最大限の効果を狙っている。それも、いわゆる「音楽的に整理された」演奏というより、「直観をそのままヴォイスと運指に適応した」演奏だ。Steinar の子供の頃のヒーローはBob Dylan だったそうだ。当時の純粋な気持ちがそのまま演奏させている。そういう感じがした。
Steinar の使うダブルベースは 1780年イタリア製という。日本で言えば江戸時代、天明の大飢饉の頃だ。この古いベースを修理しながら世界中持ってまわる。飛行機に乗るとき荷物として預けるのがいつも怖いと言っていたが、このベースは本当にいい音がする。弦は羊の腸に銀を巻いたものだそうだ。これを背が高いSteinar が全身を使って弾く。
カヴァー曲とオリジナル両方あったが、どの曲も極めてシンプルながら、よくアレンジされている。カヴァー曲であっても原曲の癖を感じさせない。知っている曲だがフレッシュな感覚だ。オリジナルの方は今回の日本公演でプレミアがかなりあった。来日直前まで新曲を書いていたらしいが、ライヴで新曲を「鍛え上げる」過程も目撃した。ホテルの部屋、会場の楽屋裏など時間があれば練習していた。新曲の歌詞を i-pad に入れ込む作業なども夜中を通してやっていたりする。
普通にうまいのは当たり前。その上をどうやって実現するか。聴く者の時間感覚をなくさせ、別の次元へ連れて行く。そこまでやってプロだ。
Steinar はホンモノだ。

by invs
| 2013-06-10 11:02
| Steinar Raknes