2013年 06月 17日
Nat Bartsch Trio 日本ツアー - 感想 |
5月に日本ツアーがあったオーストラリアのピアノ・トリオ Nat Bartsch Trio について感想を書いておく。
京都、上越、東京の三か所で一回づつ三公演が行われた。バンドは20代のピアニストで作曲家 Natalie Bartsch が率いている。編成やアプローチ、曲作りと演奏など大枠はジャズと言っていいだろう。ただ、彼女の作曲とピアノの弾き方がジャズを脱する方向を感じさせる。いわゆる一般的ジャズでよく使われるブルーノート系の音がかなり少ない。ねちっこいアメリカン・ブルース・ジャズの対極にあるのではないか。本人もノルウェーのTord Gustavsen やスイスの Nik Bartsch に師事していたりして、ヨーロッパ志向がある。
Nat の話によると、祖母はベルギー出身で、オーストラリア人の祖父とベルギーで出会ったという。だいたいBartsch という姓も元を辿ると、現在ポーランド領になっているドイツ系住民が多く住んでいた地域に多いそうだ。オーストラリアでは大変珍しい姓で、ある地域に数百人ぐらい集中して住んでいるだけという。別に、ルーツ云々のせいにはしたくないが、Nat の曲に色濃く漂うヨーロッパ的雰囲気は、彼女が音楽を学ぶ過程で後天的に身につけたものだけではなさそうだ。
ルーツといえば、ドラムのDaniel Farrugia は先祖がマルタ島出身ということだ。今回のツアーでは大変すばらしい演奏を見せてくれた。Nat の繊細なピアノに合わせ、とてもきめの細かい、抑制がきいた、でも鳴らすべきときにはダイナミックに叩くプレイヤーだった。各方面から引っ張りだこで、10を超えるバンドやユニットで活躍している。ツアー終了後一緒に入った新宿のワインバーでBGMにかかっていた曲も彼がドラムを叩いていたぐらいだ。
ベースの Tom Lee もいろいろなバンドから声がかかり、 以前には東京ジャズ・フェスティヴァルに出演するため日本に来たこともある。彼も渋いプレイを見せていた。PA ・マイクやアンプ類を一切使わない完全アコースティック公演だった上越市でのライヴではっきり聴こえたが、ダブルベースとしてはどちらかと言えばおしとやかな演奏だ。抑えがきいて、でしゃばらない。ソロをとる時でも控えめだ。Nat Bartsch の曲にはこれが合っている。メンバー選定は基本中の基本だが、ここでもNat はいいプレイヤーを選んでいる。
Nat Bartsch Trio を聴いていて Tord Gustavsen を思い出した。Nat がTord に師事して当然影響も受けたと思うが、両者とも音楽的にとても難しい「細い線上」にいる。一歩(一音)間違えば安っぽいイージー・リスニング曲に堕してしまう、そのギリギリのところをサーカスの綱渡りの如く歩いている。Nat はとても柔らかいタッチでピアノを弾くから尚更だ。選び取る音を誤ればバンド全体の中に埋もれてしまうだけでなく、曲として凡庸なものになるだろう。
ジャズ界にあってNat Bartsch Trio はまだ新人の部類だ。オーストラリアのラジオ放送局 ABC で毎日のように曲がかかってはいるが、日本では無名といっていい。今回幸いにして新CDリリースと同時期にツアーができてよかったが、これもオーストラリアのヴィクトリア州政府の助成あってのことだ。この場を借りて御礼申し上げる。翻って日本はどうか。こういう形で芸術を応援する地方自治体がもっとあっていいと思う。10メートルの道路工事予算より費用は少なくて済む。
曲"Lullaby in Oslo" の作曲はオスロでなされたとNat が教えてくれた。それも Tord Gustavsen の個人スタジオだったという。彼がNat に自由に使わせてくれたのだ。名曲が生まれたその背景を知ると、なるほどなと思う。自助努力は当然だが、アーティスト周辺のサポートが不可欠だ。
Real & True もその端くれとして引き続き貢献していきたい。
京都、上越、東京の三か所で一回づつ三公演が行われた。バンドは20代のピアニストで作曲家 Natalie Bartsch が率いている。編成やアプローチ、曲作りと演奏など大枠はジャズと言っていいだろう。ただ、彼女の作曲とピアノの弾き方がジャズを脱する方向を感じさせる。いわゆる一般的ジャズでよく使われるブルーノート系の音がかなり少ない。ねちっこいアメリカン・ブルース・ジャズの対極にあるのではないか。本人もノルウェーのTord Gustavsen やスイスの Nik Bartsch に師事していたりして、ヨーロッパ志向がある。
Nat の話によると、祖母はベルギー出身で、オーストラリア人の祖父とベルギーで出会ったという。だいたいBartsch という姓も元を辿ると、現在ポーランド領になっているドイツ系住民が多く住んでいた地域に多いそうだ。オーストラリアでは大変珍しい姓で、ある地域に数百人ぐらい集中して住んでいるだけという。別に、ルーツ云々のせいにはしたくないが、Nat の曲に色濃く漂うヨーロッパ的雰囲気は、彼女が音楽を学ぶ過程で後天的に身につけたものだけではなさそうだ。
ルーツといえば、ドラムのDaniel Farrugia は先祖がマルタ島出身ということだ。今回のツアーでは大変すばらしい演奏を見せてくれた。Nat の繊細なピアノに合わせ、とてもきめの細かい、抑制がきいた、でも鳴らすべきときにはダイナミックに叩くプレイヤーだった。各方面から引っ張りだこで、10を超えるバンドやユニットで活躍している。ツアー終了後一緒に入った新宿のワインバーでBGMにかかっていた曲も彼がドラムを叩いていたぐらいだ。
ベースの Tom Lee もいろいろなバンドから声がかかり、 以前には東京ジャズ・フェスティヴァルに出演するため日本に来たこともある。彼も渋いプレイを見せていた。PA ・マイクやアンプ類を一切使わない完全アコースティック公演だった上越市でのライヴではっきり聴こえたが、ダブルベースとしてはどちらかと言えばおしとやかな演奏だ。抑えがきいて、でしゃばらない。ソロをとる時でも控えめだ。Nat Bartsch の曲にはこれが合っている。メンバー選定は基本中の基本だが、ここでもNat はいいプレイヤーを選んでいる。
Nat Bartsch Trio を聴いていて Tord Gustavsen を思い出した。Nat がTord に師事して当然影響も受けたと思うが、両者とも音楽的にとても難しい「細い線上」にいる。一歩(一音)間違えば安っぽいイージー・リスニング曲に堕してしまう、そのギリギリのところをサーカスの綱渡りの如く歩いている。Nat はとても柔らかいタッチでピアノを弾くから尚更だ。選び取る音を誤ればバンド全体の中に埋もれてしまうだけでなく、曲として凡庸なものになるだろう。
ジャズ界にあってNat Bartsch Trio はまだ新人の部類だ。オーストラリアのラジオ放送局 ABC で毎日のように曲がかかってはいるが、日本では無名といっていい。今回幸いにして新CDリリースと同時期にツアーができてよかったが、これもオーストラリアのヴィクトリア州政府の助成あってのことだ。この場を借りて御礼申し上げる。翻って日本はどうか。こういう形で芸術を応援する地方自治体がもっとあっていいと思う。10メートルの道路工事予算より費用は少なくて済む。
曲"Lullaby in Oslo" の作曲はオスロでなされたとNat が教えてくれた。それも Tord Gustavsen の個人スタジオだったという。彼がNat に自由に使わせてくれたのだ。名曲が生まれたその背景を知ると、なるほどなと思う。自助努力は当然だが、アーティスト周辺のサポートが不可欠だ。
Real & True もその端くれとして引き続き貢献していきたい。
by invs
| 2013-06-17 09:47
| Nat Bartsch Trio