2013年 09月 01日
Eple Trio - 新譜制作について/Jonas H. Sjøvaag特別寄稿 |
9/7-8 にライヴがあるノルウェーのピアノ・トリオ Eple Trioは、今回の公演に合わせてニュー・アルバムをリリースする。日本でのリリースが世界プレミアとなるこのアルバムの制作過程についてバンドでドラムを叩いているリーダーのJonas H. Sjøvaag に説明してもらった。以下は、その和訳だ。
「森の中で、そして街の中で」- アルバム‘Universal Cycle’ の録音について
どのようにうまく準備していても、アルバムを録音するのは決して簡単ではない。前回 2010 年にアルバム "In the Clearing / In the Cavern" をスウェ―デンのスタジオ "Is It Art" (経営しているのはノルウェーのトランペット奏者 Sjur Miljeteig と ドラマーのPeder Kjellsby)で制作した時、スタジオでの一週間で起こると思われるほとんどすべてについてリハーサルをして計画を立てていた。実際は、スウエ―デンの森の奥深くで、五日間ずっとアレンジをやり直し、ここあそこの細かい部分を変え、同じ曲を何回も何回も録り直していた。アルバムのライナー・ノーツに書いた様子のとおりだ。「作品は形とハーモニーの両方において、かなりの部分か場合によってはすべてがインプロヴィゼーションだが、幾つか録音したヴァージョンは、そのすべてにおいて録音時間が一秒たりとも違わないように録音できた。これにはとても充実した感じを抱いた。なぜなら、ムードと時間の感覚や、頭で考えることを止め、ただ演奏するということについての精密さをバンドとして共通に持ちえたということだからだ。」
実際、それはとても満足のいくことだった。そして今振り返ってみると更にそう思う。というのは、考えることを止めてただ演奏し、ファイナル・ヴァージョンの録音トラックというものを作らなかったからだ。そうして初めて、作曲した部分がインプロの部分とブレンドし、そうした録音テイクが2010年にリリースされたアルバムに採用された。
2年後の2012年、今度は別のアプローチをとることを決めた。前回は計画してリハーサルして臨んだが、今回はまったく準備せず作品にスタジオ内で向き合うことで、更に自発的な形で制作できるよう自分たちを仕向けるようにした。付け加えておくと、スタジオでの作業は三日間しか余裕はなく、その内の半分は機材の設定と移動にかけざるを得なかった。今回は前回とかなり異なる状況だった。
晩夏の森は美しい。長い影、頭上の木々、草の匂い、葉と水。こういうことは、その存在に気が付くと我々に影響を与える。身体と心がそれに反応する。気分を落ち着け、とてつもなくデリケートな何かを創り出すとても平和な環境を与えてくれる。でも、少しでもフォーカスをはずすと、それらはダメージを受け、場合によっては破壊される。絵画、音楽、詩、文学はすべて心の創造物であり、そう簡単に手に入るものではない。
実際、そう簡単に行かなかった。事実、このレコードはまったく簡単には完成しなかった。予定されていたトラックを録音し、時には再録音し、少し再アレンジし、作品が気分にフィットするように手直しした。幾つかのトラックでは特に難しかった。フラストレーションで壁に頭を打ち付けていたが、時間が限られていることを知っていたので、そのまま押していった。ある時、Siguard が疲れてベースの後ろで寝てしまったが、一方他のメンバーはIvar のスティール・ギターがその時の音にどうやったらフィットするか考えていた。
三日間は闘いの連続だった。限られた時間内に何かを創り出すという事実によってのみ、プランに従って作業し、アレンジと演奏は自発的にやっていた。フラストレーションでいっぱいになった時は深い緑の中をジョッギングしたり、おいしい料理を作ったり、ただ短い休憩をとったりした。どれもうまくいかなかった。結局、必要なものの半分しかできていなかった。
自宅に戻ってから、皆アルバムについては長いこと話し合わなかった。話したくないということではなく、言い尽きてしまっていたからだ。すべての角度からの試みをし、ほとんどすべての解決策は廃案となった。アルバムの半分は完成していたが、後の半分はどこにもなかった。
2013年の2月迄は、レコードの未完の半分についてかなりの時間をかけた。録音トラックを何度も聴き、採用できる部分があればそれを見つけようとした。うまくいかなかった。そこで、長い議論の末、数日間、オスロにある Propeller Studio を借りることにした。スウェ―デンに戻って作業を続ける時間的余裕がなかったからだ。Propeller Studio にはバイクで約10分で行ける。行ったり来たりしても家族や子供との時間がとれる。幸運にも、スタジオはトランペット・プレイヤーの Mathias Eick の家にも近かった。彼とは以前数回一緒に演奏していた。セッションの前にMathias を呼び、彼はトランペットを抱えてスタジオにやってきて結局三つのトラックで演奏することとなった。録音されていたマテリアルから六ケ月間離れ、Mathias のリリカルなセンスを加えた - それが問題を解決した。たった一日の録音で、新譜のためのマテリアルが十分に揃い、予定通り前に進むことができた。
そこからは簡単だった。Propeller Studio で素晴らしいMorgan Nicolaysen と Chris Sansom とともにミックスとマスタリングを行った。当初、計画なしで、外向的な音楽を自発的に探求しようとしたセッションは、長い、ゆっくりしたプロセスに変わり、街の音を聴く環境に戻って終わりを迎えた。
緑の森に囲まれる環境がアートにとってベストであると今でも思っているが、自然の広さを音楽で満たすか、毎日の街のノイズと苦悩を自然でもって解消することもできる。今回は両方の恩恵を受けた。
Jonas H. Sjøvaag
August 2013
9/7 公演
9/8 公演
試聴 曲 'Morning Stillness, Crisp Air' - Eple Trio featuring Mathias Eick, live at Nasjonal Jazzscene, Oslo | March 6th 2013

どのようにうまく準備していても、アルバムを録音するのは決して簡単ではない。前回 2010 年にアルバム "In the Clearing / In the Cavern" をスウェ―デンのスタジオ "Is It Art" (経営しているのはノルウェーのトランペット奏者 Sjur Miljeteig と ドラマーのPeder Kjellsby)で制作した時、スタジオでの一週間で起こると思われるほとんどすべてについてリハーサルをして計画を立てていた。実際は、スウエ―デンの森の奥深くで、五日間ずっとアレンジをやり直し、ここあそこの細かい部分を変え、同じ曲を何回も何回も録り直していた。アルバムのライナー・ノーツに書いた様子のとおりだ。「作品は形とハーモニーの両方において、かなりの部分か場合によってはすべてがインプロヴィゼーションだが、幾つか録音したヴァージョンは、そのすべてにおいて録音時間が一秒たりとも違わないように録音できた。これにはとても充実した感じを抱いた。なぜなら、ムードと時間の感覚や、頭で考えることを止め、ただ演奏するということについての精密さをバンドとして共通に持ちえたということだからだ。」
実際、それはとても満足のいくことだった。そして今振り返ってみると更にそう思う。というのは、考えることを止めてただ演奏し、ファイナル・ヴァージョンの録音トラックというものを作らなかったからだ。そうして初めて、作曲した部分がインプロの部分とブレンドし、そうした録音テイクが2010年にリリースされたアルバムに採用された。
2年後の2012年、今度は別のアプローチをとることを決めた。前回は計画してリハーサルして臨んだが、今回はまったく準備せず作品にスタジオ内で向き合うことで、更に自発的な形で制作できるよう自分たちを仕向けるようにした。付け加えておくと、スタジオでの作業は三日間しか余裕はなく、その内の半分は機材の設定と移動にかけざるを得なかった。今回は前回とかなり異なる状況だった。
晩夏の森は美しい。長い影、頭上の木々、草の匂い、葉と水。こういうことは、その存在に気が付くと我々に影響を与える。身体と心がそれに反応する。気分を落ち着け、とてつもなくデリケートな何かを創り出すとても平和な環境を与えてくれる。でも、少しでもフォーカスをはずすと、それらはダメージを受け、場合によっては破壊される。絵画、音楽、詩、文学はすべて心の創造物であり、そう簡単に手に入るものではない。
実際、そう簡単に行かなかった。事実、このレコードはまったく簡単には完成しなかった。予定されていたトラックを録音し、時には再録音し、少し再アレンジし、作品が気分にフィットするように手直しした。幾つかのトラックでは特に難しかった。フラストレーションで壁に頭を打ち付けていたが、時間が限られていることを知っていたので、そのまま押していった。ある時、Siguard が疲れてベースの後ろで寝てしまったが、一方他のメンバーはIvar のスティール・ギターがその時の音にどうやったらフィットするか考えていた。
三日間は闘いの連続だった。限られた時間内に何かを創り出すという事実によってのみ、プランに従って作業し、アレンジと演奏は自発的にやっていた。フラストレーションでいっぱいになった時は深い緑の中をジョッギングしたり、おいしい料理を作ったり、ただ短い休憩をとったりした。どれもうまくいかなかった。結局、必要なものの半分しかできていなかった。
自宅に戻ってから、皆アルバムについては長いこと話し合わなかった。話したくないということではなく、言い尽きてしまっていたからだ。すべての角度からの試みをし、ほとんどすべての解決策は廃案となった。アルバムの半分は完成していたが、後の半分はどこにもなかった。
2013年の2月迄は、レコードの未完の半分についてかなりの時間をかけた。録音トラックを何度も聴き、採用できる部分があればそれを見つけようとした。うまくいかなかった。そこで、長い議論の末、数日間、オスロにある Propeller Studio を借りることにした。スウェ―デンに戻って作業を続ける時間的余裕がなかったからだ。Propeller Studio にはバイクで約10分で行ける。行ったり来たりしても家族や子供との時間がとれる。幸運にも、スタジオはトランペット・プレイヤーの Mathias Eick の家にも近かった。彼とは以前数回一緒に演奏していた。セッションの前にMathias を呼び、彼はトランペットを抱えてスタジオにやってきて結局三つのトラックで演奏することとなった。録音されていたマテリアルから六ケ月間離れ、Mathias のリリカルなセンスを加えた - それが問題を解決した。たった一日の録音で、新譜のためのマテリアルが十分に揃い、予定通り前に進むことができた。
そこからは簡単だった。Propeller Studio で素晴らしいMorgan Nicolaysen と Chris Sansom とともにミックスとマスタリングを行った。当初、計画なしで、外向的な音楽を自発的に探求しようとしたセッションは、長い、ゆっくりしたプロセスに変わり、街の音を聴く環境に戻って終わりを迎えた。
緑の森に囲まれる環境がアートにとってベストであると今でも思っているが、自然の広さを音楽で満たすか、毎日の街のノイズと苦悩を自然でもって解消することもできる。今回は両方の恩恵を受けた。
Jonas H. Sjøvaag
August 2013
9/7 公演
9/8 公演
試聴 曲 'Morning Stillness, Crisp Air' - Eple Trio featuring Mathias Eick, live at Nasjonal Jazzscene, Oslo | March 6th 2013

by invs
| 2013-09-01 12:17
| Eple Trio