2017年 12月 21日
Dave Stewart & Barbara Gaskin - 曲 |
Dave Stewart & Barbara Gaskin の 2018 日本公演発表については多くのファンの方々から喜びの声をいただいた。こういう形で社会に貢献できるのは本望とするところだ。
彼らの名前はファンの方以外は多分ご存じない方も多いことと思う。最近は寡作だし(最後のオリジナル・アルバムは 9 年ほど前にリリース)、ライヴも前回同時期に東京でやっただけだ。本国イギリスでもやっていない。
ファンの方には釈迦に説法だから、以下の説明はDave Stewart & Barbara Gaskin をご存じない方に向けて書いたものと思っていただきたい。
このデュオはただイギリス・ヒット・チャートで一位になったバンドとしてのみ捉えられてはならない。彼らがデュオとして活動を始める前には、イギリスの最も良質な音楽の幾つかを創ってきたという歴史がある。それぞれ 1960 - 1970 年代後半までいろいろなフォーメーションの、それもどちらかと言えば一般人から見れば「難しい」か「渋い」、ポップの世界とは対照的なバンドで活動し、ようやく1980 年代に入ってデュオとして「大人のポップ」路線へ踏み出している。それを下積みと言うのは間違いで、むしろ各時代において最良の選択をしてきた。デュオはその集大成だ。
彼らが単なるポップ・バンドでないことは曲を聴けば歴然としている。Dave Stewart の作曲能力は、アレンジも含めて飛び抜けていて、練りに練られた曲の全体構造、メイン・テーマの設定、メロディーの選択、場面場面に応じて手作りした音色、ダイナミックでありながらも全体構成を邪魔しないリズム、飽きさせない曲展開を支える様々な細工の積み重ね(思いがけないが、ちょっとひねって気持ちのいい転調)など、挙げだしたらきりがない。こういう人間わざとも思えない Dave の徹底的に「仕事を施した」曲の上にBarbara の声がのっている。柔らか味がありながら、どこかクール、ヴェルヴェットの感触がありながら、どこかその光沢を隠している。対照的でありながら補完的で、Dave との音楽的相性は抜群だ。
まずはこの曲を聴いていただきたい。
"Busy Doing Nothing"
"Leipzig"
"I'm In A Different World (Extend Version)"
"Grey Skies"
"Let Me Sleep Tonight"
"Golden Rain"
"The World Spins so Slow"
"Make Me Promises"
"Deep Underground"
カヴァー曲を原曲以上の魅力に仕立てられるアーティストは数えるほどしかいない。大抵は原曲の強さ、原曲のシンガーのよさなどに負けてしまう。Dave Stewart & Barbara Gaskin はオリジナルも凄いが、カヴァーも尋常ではない。実際、それでイギリス・ヒット・チャート一位をとった。
"It"s My Party"
"Locomotion"
"Henry and James"
デュオのレコーディングに立ち会ったイギリスの Spaceward Studio の Owen Morris が以下のように書いている。
「1986年頃に Dave Stewart の音響エンジニアリングを始めた。Spaceward Studio のTed Hayton がロンドンでの光り輝くフリーランスの仕事をするため辞めた時だ。
実際、本当のところは、音響エンジニアリングの 90% は Dave がやった。当時若かった私より彼の方がレコード作りについてはるかに良く知っていた。多分、今でも彼の方が私よりレコード作りについては知っているのではないか。
Daveは完璧主義者だった。驚くべきキーボードと MIDI 設定を持っていた - 少なくとも当時としては。そして素晴らしいミュージシャンだった。Barbaraは華やかで、美しい女性でとても親切で優しい心を持っていた。彼らはいつも私にやさしくしてくれ、Dave と仕事をしてはかり知れない多くのことを学んだ。
彼らの音楽は私のテイストからは少しばかり頭が良すぎるように思えたが、彼らの心は間違いなく正しいところにあった。彼らのことをとても気に入っていた。
Spaceward Studio が閉鎖されると発表されるや Dave は最後のスタジオの数か月分を全部おさえて、そこからできるだけ多くの録音のための時間を見出そうとした(非常に速いペースで)。
自分が関わった曲の中で私が好きな曲はプログレ/すべての叙事詩に終止符を打つ華やかな叙事詩 "New Jerusalem" だ。これはすべてを完全に超える。いい曲でいい思いが込められている。ここに録音した時のトラック・シートの写真がある。Spaceward ではアナログ 24 トラック、Dolby A で録音していた。彼は 24 トラック録音を極限まで使い倒した。トラック・シートは 5 フィート以上の長さになった。それを見ると、各々のトラックが曲の各セクションの必要性に応じて変更できるようになった(とても多くのセクションがある)、まったく普通ではない曲だということがわかる。Dave と Barabara は真のエキセントリックなイギリス人だ。私は彼らが好きだった。」
Spaceward Studios は Cambridge にあった。
当時の Dave と Barbara の写真がある(サイトをスクロール・ダウン)。
"New Jerusalem"
録音した時のトラック・シート
偶然だが、昨日の Bill Bruford の公式サイトに「Rolling Stone 誌の2017 ベスト・プログレ賞」に Bill が最近リリースしたボックス・セット・アルバム ‘Seems like a Lifetime Ago’ が選ばれたと書かれている。このボックス・セットは Bill のバンド Bruford のこれまでのアルバムなどをレアものと一緒にまとめたものだ。バンド Bruford には Dave Stewart がメンバーとして加わっていた。Bill Bruford は後年、作曲家としても知られるところとなった(バンド Brufordの後、Earthworks というグループがあった)が、最初は Dave の手ほどきを受けたそうだ。

photo: 前沢春美
彼らの名前はファンの方以外は多分ご存じない方も多いことと思う。最近は寡作だし(最後のオリジナル・アルバムは 9 年ほど前にリリース)、ライヴも前回同時期に東京でやっただけだ。本国イギリスでもやっていない。
ファンの方には釈迦に説法だから、以下の説明はDave Stewart & Barbara Gaskin をご存じない方に向けて書いたものと思っていただきたい。
このデュオはただイギリス・ヒット・チャートで一位になったバンドとしてのみ捉えられてはならない。彼らがデュオとして活動を始める前には、イギリスの最も良質な音楽の幾つかを創ってきたという歴史がある。それぞれ 1960 - 1970 年代後半までいろいろなフォーメーションの、それもどちらかと言えば一般人から見れば「難しい」か「渋い」、ポップの世界とは対照的なバンドで活動し、ようやく1980 年代に入ってデュオとして「大人のポップ」路線へ踏み出している。それを下積みと言うのは間違いで、むしろ各時代において最良の選択をしてきた。デュオはその集大成だ。
彼らが単なるポップ・バンドでないことは曲を聴けば歴然としている。Dave Stewart の作曲能力は、アレンジも含めて飛び抜けていて、練りに練られた曲の全体構造、メイン・テーマの設定、メロディーの選択、場面場面に応じて手作りした音色、ダイナミックでありながらも全体構成を邪魔しないリズム、飽きさせない曲展開を支える様々な細工の積み重ね(思いがけないが、ちょっとひねって気持ちのいい転調)など、挙げだしたらきりがない。こういう人間わざとも思えない Dave の徹底的に「仕事を施した」曲の上にBarbara の声がのっている。柔らか味がありながら、どこかクール、ヴェルヴェットの感触がありながら、どこかその光沢を隠している。対照的でありながら補完的で、Dave との音楽的相性は抜群だ。
まずはこの曲を聴いていただきたい。
"Busy Doing Nothing"
"Leipzig"
"I'm In A Different World (Extend Version)"
"Grey Skies"
"Let Me Sleep Tonight"
"Golden Rain"
"The World Spins so Slow"
"Make Me Promises"
"Deep Underground"
カヴァー曲を原曲以上の魅力に仕立てられるアーティストは数えるほどしかいない。大抵は原曲の強さ、原曲のシンガーのよさなどに負けてしまう。Dave Stewart & Barbara Gaskin はオリジナルも凄いが、カヴァーも尋常ではない。実際、それでイギリス・ヒット・チャート一位をとった。
"It"s My Party"
"Locomotion"
"Henry and James"
デュオのレコーディングに立ち会ったイギリスの Spaceward Studio の Owen Morris が以下のように書いている。
「1986年頃に Dave Stewart の音響エンジニアリングを始めた。Spaceward Studio のTed Hayton がロンドンでの光り輝くフリーランスの仕事をするため辞めた時だ。
実際、本当のところは、音響エンジニアリングの 90% は Dave がやった。当時若かった私より彼の方がレコード作りについてはるかに良く知っていた。多分、今でも彼の方が私よりレコード作りについては知っているのではないか。
Daveは完璧主義者だった。驚くべきキーボードと MIDI 設定を持っていた - 少なくとも当時としては。そして素晴らしいミュージシャンだった。Barbaraは華やかで、美しい女性でとても親切で優しい心を持っていた。彼らはいつも私にやさしくしてくれ、Dave と仕事をしてはかり知れない多くのことを学んだ。
彼らの音楽は私のテイストからは少しばかり頭が良すぎるように思えたが、彼らの心は間違いなく正しいところにあった。彼らのことをとても気に入っていた。
Spaceward Studio が閉鎖されると発表されるや Dave は最後のスタジオの数か月分を全部おさえて、そこからできるだけ多くの録音のための時間を見出そうとした(非常に速いペースで)。
自分が関わった曲の中で私が好きな曲はプログレ/すべての叙事詩に終止符を打つ華やかな叙事詩 "New Jerusalem" だ。これはすべてを完全に超える。いい曲でいい思いが込められている。ここに録音した時のトラック・シートの写真がある。Spaceward ではアナログ 24 トラック、Dolby A で録音していた。彼は 24 トラック録音を極限まで使い倒した。トラック・シートは 5 フィート以上の長さになった。それを見ると、各々のトラックが曲の各セクションの必要性に応じて変更できるようになった(とても多くのセクションがある)、まったく普通ではない曲だということがわかる。Dave と Barabara は真のエキセントリックなイギリス人だ。私は彼らが好きだった。」
Spaceward Studios は Cambridge にあった。
当時の Dave と Barbara の写真がある(サイトをスクロール・ダウン)。
"New Jerusalem"
録音した時のトラック・シート

偶然だが、昨日の Bill Bruford の公式サイトに「Rolling Stone 誌の2017 ベスト・プログレ賞」に Bill が最近リリースしたボックス・セット・アルバム ‘Seems like a Lifetime Ago’ が選ばれたと書かれている。このボックス・セットは Bill のバンド Bruford のこれまでのアルバムなどをレアものと一緒にまとめたものだ。バンド Bruford には Dave Stewart がメンバーとして加わっていた。Bill Bruford は後年、作曲家としても知られるところとなった(バンド Brufordの後、Earthworks というグループがあった)が、最初は Dave の手ほどきを受けたそうだ。

by invs
| 2017-12-21 11:26
| D.Stewart & B.Gaskin

