2021年 04月 02日
久しぶりの Mr. Diagonal |
久にぶりに Mr. Diagonal (対角線様、斜めさん)の登場だ。昨日メールが届いた。子供を主人公にしたヴィデオを制作したという。 また、YouTubeチャンネルを持ったという。早速見てみた。
I’m a Vampire - 2021年 3/31掲載
人を食ったようなヴィデオだ。彼らしい。今後も子供をテーマに "Kiddy Klips" を続けていくそうだ。
と思えばこんなシリアスな曲もある。
The Mountain - 2016年 7/27 掲載
ピアノは子供の時クラシックコンクールで優勝した腕前だ。そのままやっていたら今頃クラシックのミュージシャンになっていたかも知れない。
What Do you Do with a Manioc ? by North Pacific - 2018年 3/17 掲載
バックにかつての彼のバンド Black Light Orchestra の Yannick Dupont と Quentin Manfroy がいる。 Quentin は日本の長編詩をまったく一語も、アクセントも間違いなく、ステージで暗唱していた。
False Memory Lane - 2021年 3/17 掲載
Mr. Diagonal の場合はいつも歌詞が大事だ。皮肉、諧謔、自嘲、哄笑、自虐など満載で、英語がわかっていても、ともすればフレーズやら何やらでけむに巻かれてしまう。彼の「斜め」ぶりは半端ではない。
他にも YouTubeチャンネルには曲が載っているので彼(ユダヤ系イギリス/ スコットランド人、 ベルギー在住)のことをもう少し知りたいという方はご覧になっていただくことをお薦めする。尚、彼は Facebook をやらない。
彼のバックグラウンドを、長くなるが、以下 2016年 3/27 日本公演感想( 2016年3/28)より引用しておく。
スコットランドで生まれたDan Barbenel がいつの頃から、自分のアルター・エゴ(英語ではイーゴ)を持つようになったのかは知らない。結構厳しく育てられたということだから、そのあたりに起源があるのだろうか。ベルギーのブリュッセルでバックバンド The Black Light Orchestra とライヴをやるようになった頃には Mr. Diagonal(対角線様)というもう一人の自分の名前を持つことになった。
Mr. Diagonal & the Black Light Orchestra として数回来日を果たした頃には、Dan Barbenel という本名はすっかり影を潜め、個人的に名前を言う時だけ Dan が使われていた。バンドとして数枚のアルバムをリリースしたあと、Mr.Diagonal 名義で "Mr.Diagonal's Midlife Crisis"(「対角線様の中年の危機」というアルバムを昨年リリースしている。この時点では、まだアルター・エゴが残っていたわけだ。
その後、今年の2月になり「公式に」Mr. Diagonal がインド洋で遊泳中行方不明になったという発表をし、「彼の代わりにDan Barbenel が」ツアーをするということになった。個人名義の新譜 "Little Black Book" が 1月に録音されていることからして、その前後のある時期に Dan としてはMr.Diagonalとお別れしたわけだ。ただ、彼によると、Mr.Diagonal は死んだのではない。アルター・エゴであるから、そのうちまた現れるかもしれない。
いずれにせよ、今回の日本ツアーはDan Barbenel が表舞台に立ってすぐのライヴということになる。来日前にベルギーで若干のライヴを行っているが、長期に亘るツアーは日本が初めてだ。このあと、ベルリンやパリで演奏するというから、彼の日本への思い入れというのがわかる。
中央にグランド・ピアノ、歌用にマイクが一本、MC用にマイクが一本あるというシンプルなステージだ。照明は抑え目で、曲によってはDan の顔が暗いぐらいだ。一曲ごとに彼指定の照明で演出されている。 Dan によれば彼の曲は四種に分けられるという。
「コメディー」、「風刺(サタイア)」、「ハイパー・ロマンティック」と「動物(アニマル)」だ。コメディーものは、誤解を恐れずに言えば、チャップリン映画のバックに流れるようなものをピアノで弾く。ただ、コメディーといっても純粋に面白可笑しいのではなく、そこここに彼特有のヒネリや皮肉が歌詞に込められている。歌詞が英語で、かつ練ってあるから日本人にはわかりにくいが、モンティ・パイソンばりのダークなフレーズが出てきたりもする。
風刺ものは昨日演奏したものでは "Diana"(ダイアナ)があった。貴族出身の故ダイアナ妃を "She was just a working girl wearing frumpy clothes" (「ただの薄汚い服を着たワーキング・ガールだった」という歌のフレーズから始めてしまうことでわかるように、容赦ない。ただ、イギリスでは王室を笑いや風刺のネタにすることは普通に行われていて(これまたモンティ・パイソンにもあった)一般に寛容だ。
容赦ないのは、ハイパー・ロマンティックものや動物ものも同様で、Dan はとことんやるのが好きだ。とことんやって、その本質を露出させ、更にその裏まで描いて見せる。きれいなものが裏返ったらきれいでなくなるか。そう問いかけているようにも思える。ダークでエロで際どく迫る歌詞が「無邪気」で「普通」で「たわいもない」音の上に載せられる。彼の曲を聴く方は時に笑い、その裏で考え、普通と特異の境いを彷徨う。昨年、イギリスでアーティストのバンクシーが Dismaland (「悪の園」)というディズニーを風刺した「エンタテインメント・センター」を期間限定でオープンして話題となった(シンデレラの死体がある)が、それと同様、グロテスクなもののように一見正視できない表現の中に世界の本質を見極めようとする精神が見てとれる。
グランド・ピアノと歌というシンプルな構成に、社会的・哲学的視点を持ち込む Dan Barbenel のライヴは実に刺激的だ。日本に向けて彼が住まいのあるブリュッセルを発った翌日、空港と地下鉄駅(彼の住まいに近い)でテロが起きた。テロはもちろん批難すべき行為だが、それは病んだ世界における小さな(でも衝撃的で、それ故警鐘となる)症状に過ぎない。病気の本質がどこにあるかいろいろ意見があろうが、肥大した資本主義社会が「生活習慣病」の如く世界という身体を蝕んでいるのは明らかだと思う。
Dan の曲に、直接的に資本主義社会を揶揄したものはまだ見受けられない(或いは、まだこちらの理解が足りない)が、いろいろな曲で「生活習慣病」の習慣を改めよという示唆を受ける。自覚的か無自覚かわからないが、彼は混迷の世の道案内をかって出ている。
by invs
| 2021-04-02 13:53
| Dan Barbenel