2023年 12月 10日
Nat Bartsch(ナット・バーチュ)の内的欲求 |
ピアニスト Nat Bartsch(ナット・バーチュ)の 4 公演が終了した。昨夜、稲毛 Candy 公演には多数ご来場いただいた。 4 公演に来ていただいた方々及び各会場の関係者に御礼申し上げる。
Nat のソロ・ピアノには幾つかの特徴がある。特にここ 10 年ぐらいの間に形が出来ていったように思う。一つには今回の公演でも演奏された lullaby(子守歌)のように、人を癒すことだ。これはいわゆるブームというか、「ヒーリング」などといったマーケティングで多用されるものとは一線を画す。
彼女の「癒し」はよくあるような、他人を意識的に癒すというものでなく、本能的に自分に向けてなされるものだ。彼女は自分が neurodivergent (ニューロダイヴァージェント: 認知機能または感覚機能が「標準的」な人々とは異なる人。 発達障害を神経や脳の違いによる「個性」とする考えに基づいて、そういう人物を言う。例えば、ASD - 自閉スペクトラム症や ADHD - 注意欠陥多動性障害、LD - 学習障害など。)だとしている(本人のホームぺージ)が、それは 30 才の時に初めてわかったという。ちょっと前まで「病気」と捉えられていたことだ。
赤ちゃんをあやすと同時に人(自分を含む)を癒す。そこにはそうせざるを得ない、差し迫った感覚がある。彼女は「曲の中に繰り返しが多いフレーズがある」という趣旨のことを話していたが、まさに曲で自分をなだめている。ピアノの前に座って赤ちゃんをダッコしながら右手で作曲した「子守歌」は自分に向けた無意識的・意識的「癒し」になっていて、それが本物だからこそ、他人をも癒す効果を発揮する。
左手でよく、そして右手でも時折演奏されるアルペジオや曲の終了手前数秒間、右手で低音部から高音部に続けて展開される和音を分解したフレーズに、フリル的に添えられた 6 度、7 度、9 度の単音など、曲の構造に共通性があるものが多い。そうした流れを経ることにより全体として「癒し」にもっていく。単にムードだけで多重録音のシンセがヒラヒラしている「ヒーリング音楽」とは明らかに違う。
そうでなかったら、賞をあれほど連続して多数受賞することはないし、多くの作曲の依頼も来ない。
自分の内的欲求を昇華していくと何ができるかという素晴らしい例だ。
by invs
| 2023-12-10 11:33
| Nat Bartsch Trio